9月おたより「平和を憶える夏」
「平和を憶える夏」
夏休みはいかがお過ごしでしたか。新型コロナ感染症がようやく落ち着き、久しぶりにお出かけをしたという方もいらしたことでしょう。 私は今年広島に行き、被爆者のお話を聞く機会を持ちました。当時5歳だった塩冶節子さんは爆心地からわずか1.6㎞のご自宅で被爆しました。閃光が光ったと同時に家が崩れて閉じ込められ、お母さまが瓦礫を掘り返し助け出してくださったそうです。道に出ると倒れている人のうめき声や家の下敷きになり助けを求める声、やけどで真っ黒になり皮膚が垂れ下がったまま両手を前に上げてゆっくりと歩いている人たち、瓦礫の中からゴロンと出てくる黒く焼けた人、赤ちゃんを背負ったまま亡くなっている人などを次々と目にし続け、次第に死体があるのが当たり前になっていったそうです。むくむくと形を変えずにじっと空に浮かぶ不気味な原子雲と亡くなっていく人たちの姿が、幼い塩冶さんの脳裏に78年を経ても消えることのない惨状として焼き付けられたのでした。妹さんや友だちは、その後何年も被爆の苦しみと闘いながら亡くなり、原爆の苦しみはずっと塩冶さんの心を覆い続け、83歳の現在も被爆体験を語り継いでおられます。
あの夏、原爆が落とされることがなければ、戦時下ではありましたが子どもたちは私たちのようにそれぞれの場で新しい学期に友だちと再会し、笑い合うことができたのです。 友だちや大切な人たちとの再会がかなわなかった方々、その後も後遺症で苦しみ続けた方々を思い、今年は新学期に大きくなった子どもたちと再会できる喜びが一層心に沁み、平和の大切さを憶える夏となりました。 今も世界中で戦禍の中にある国々があり、当たり前の日常が脅かされている人たちがたくさんいます。私たちが今ある平和に感謝し、そして世界に平和が来るよう祈り続けていかなくてはならないと感じています。
園長 髙瀬眞理子